空を手に入れる方法

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雪の夜の天文台

 バスを待つ間、空を仰いでいる。凍てついた夜空を突き破り、星の光が降り注ぐ。夜の空気が肌を刺す。今日はやけに星が多い。そういえば天気予報では初雪が降るといっていた。私はマフラーをきつく締めなおした。いそいそとバスに乗り込む。
 空席に座れた私はやはり、空を見ている。

 星は輝きを増していく。星で埋めつくされた空、まるで天文台にいるかのようだ。
 私は古い天文台にいる。
 夜の間、天文台のドーム状の屋根が開き、巨大な望遠鏡が姿を現す。
 望遠鏡が北極星を追っていることを確認して、私は振り返った。
「北極星と地球の間には、千光年という距離が横たわっている」
 密やかに告げた。観測室はしんと静まり返って、私のささやかな呟きを部屋の隅々まで響き渡らせる。私は言葉を続ける。
「千光年とは光の速さで千年かかる距離のことだ。北極星の光は、千年もかけてこの地球へと辿り着いた。私たちが見ているのは、北極星が千年前に放った光だ。
 もし今この瞬間に北極星が爆発しても、私たちはそれを見ることはできない。千年後の地球に生きる人々がそれを見て始めて、北極星が千年前に爆発したことを知るのだ」
 私は空を見上げた。
 崩れ落ち大きな穴が穿たれたドームから星の光が漏れてくる。銀の光が私を射抜く。
 一体どの位の輝きが、既に失われているのだろう。
 この光の幾らかは、今はもうない星のものなのだ。
 何千何万光年の彼方から、空を渡ってきた光。たった一人で、暗い宇宙を渡ってきた。
 その哀しみを知る者はいない。想像できる者も、しようとする者もいない。ただその光の眩さに目を奪われるだけだ。
 遥かな旅路の果て、この地に辿り着いてなお、彼らは一人だ。

 いつの間にか、翳った空からは雪が舞い降りてくる。
 私は誰もいない天文台で、一人立ちつくす。
 私にも彼らの哀しみをただ想像することしかできないのだけれど………。
 雪は優しく降り積もる。それは彼らの哀しみを包み込むかのように思える。
 私は祈った。
 実際にそうであるといい。この地に降り来た孤独な光が、せめて安らかに眠れるといい。彼らが穏やかな夢を見られるといい。
 白い布団で眠りにつこう。星の光とともに眠ろう。

 私はいつの間にか泣いていた。何故涙が出るのか分からないままに、私は泣いていた。
 バスの中は相も変わらず騒がしい。
 私は窓の外を見上げて、まだ泣いていた。そっと心の中で祈りを捧げた。

メモ
元ネタ:「Rule 色あせない日々 /坂本真綾」「100億の星の中でも」「Q.E.D.証明終了」「丘の上の天文台」、北極星の辺りは高校時代の地学の先生から教わりました。これも2001年頃のもの。
この話の前に、「サハラ砂漠のは短いからシリーズ化したら?」と言われ、サハラ砂漠の他にはどこに行きたいかな〜と、そんなノリで書いた「モンゴルにて」というのがあります。前サイトにはそちらも載せていたのですが、今見るとちょっといろいろ修正しないとあんまりな出来なので、upは見送りです。